五、「モークシャグプタと三蔵法師の論争 一」

モークシャグプタは三蔵法師に向かって、
「この国には『雑心(ぞうしん)』『倶舎(くしゃ)』『毘婆沙(びばしゃ)』などの経典がみなそろっている。これを学べば悟りを得るのに十分である。わざわざ西方へおもむいてね難儀を受ける必要はない」
〈『玄奘三蔵』(講談社)からの引用〉
と言ったのでした。

そこで、三蔵法師は、
「ここに『瑜伽論(ゆがろん)』はありますか?」
と三蔵法師が尋ねると、グプタは、
「どうしてそんな邪見の書のことを聞くのですか。真の仏弟子たろうとする者は、その経は学びません」
〈『玄奘三蔵』(講談社)からの引用〉
と答えたのでした。

三蔵法師は最初はグプタを尊敬しておりましたが、この言葉を聞いた刹那、三蔵法師はグプタをまるで土くれのように眺めるのでした。
そして、三蔵法師はグプタと次のような論争をしたのとでした。

「『婆沙(ばしゃ)』『倶舎(くしゃ)』は中国にすでにあります。その理は疎雑(そざつ)で言葉は浅く、究極の説でないのが残念です。そこで私はこうしてやってきて『大乗瑜伽論(だいじょうゆがろん))』を学びたいと考えているのです。またこの『瑜伽(ゆが)』は弥勒菩薩(みろくぼさつ)が説いた教えです。それを貴方はいま邪見の書といいましたが、貴方は無間地獄(むげんじごく)をおそれないのですか」
〈『玄奘三蔵』(講談社)からの引用〉
と三蔵法師は言ったのでした。

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