二十八、「摩掲陀(マガダ)国 九」

正法蔵は聴き終わって心を込めて礼拝すると、その金色(こんじき)の人は碧(みどり)色の人をさして、

「そなたはしっているか、この人こそ観自在菩薩(かんじざいぼさつ)である」

といい、また銀色の人をさして、

「この方は慈氏菩薩(じしぼさつ)である」

といわれた。

正法蔵は慈氏に礼拝して、

「私はいつも御身もとに生まれ変わることを願っております。この願いは達せられましょうか」

というと、

「そなたが正法を広く伝えれば、後世にはその願いは達せられよう」

と答えられた。

そのとき、金色の人は、

「私は曼殊室利(マンジュシュリー)(文殊(もんじゅ))菩薩である。私たちはそなたが空しく身を捨てようとしており、それが利益とならないのをみて、いまここに来てそなたに翻心(ほんしん)をすすめているのである。そなたはいまこそ私の言葉に従い、正法(しょうほう)『瑜伽論(ゆがろん)』などあまねくまだ知られていない地方に及ぼしなさい。そうすればそなたの身はしだいに安らかになるだろう。使者を遣わしえぬことを憂うる必要はない。志那(チーナ)国に一人の僧がおり、大法を流通せんことを願い、そなたについて学びたいと心から欲している。そなたは待っていて、そなたはその者に教えなさい」

といった。

正法臓(しょうほうぞう)は聴き終わって礼拝(らいはい)し、

「謹んで御教えに従います」

と申し上げると、三人の姿はもう見えなくなかった。
しかしそれ以来、正法臓の病苦は忘れたように消えてしまったのです。
〈『玄奘三蔵』(講談社)からの引用〉

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