四、「賊にあう 三」

それから賊の二人の男に刀を抜かせ、そして、三蔵法師をその壇上に上らせて、すぐさま刀を振り落とそうとしたのでした。
ところが、三蔵法師は少しも恐れを表情に出さなかったので、俗はみな驚いたのでした。
三蔵法師は最早逃れられないと観念し、賊に向かってこう言ったのでした。

「願わくはしばらくあい苦しまないよう、私が心安らかに喜んで死ねるようにしてください」

そこで法師は、心をトゥシタ天に馳(は)せ、ひたすら弥勒菩薩(みろくぼさつ)を念じ、

「どうか来世(らいせ)はトゥシタ天に生まれてうやうやしく供養(くよう)し、『瑜伽師地論(ゆがしじろん)』の講義をうけ、妙法を聞いて悟(さと)りを開いた上は、またこの世に生まれてこの人びとを教化(きょうげ)し、もろもろの悪業(あくぎょう)をすてて勝行(しょうぎょう)(善行)をおこなうように導きたい。さらにあまねく諸の仏法をひろめ、一切(いっさい)の衆生(しゅじょう)を安心させ給え」

と祈願した。
〈『玄奘三蔵』(講談社)からの引用〉

このように三蔵法師は、十方の仏を礼拝(らいはい)し、正座をして、ひたすらに弥勒菩薩(みろくぼさつ)を念じていたところ、いつの間にか三蔵法師の身はスメール山に登り、一天、二天、三天を越えて、トゥシタ宮の弥勒菩薩の下に至って、その妙宝台(みょうほうだい)のそばにいて、三蔵法師の周りを天人が取り巻いているように気がするのでした。

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