十一、「龍猛菩薩とテーヴァ菩薩」

そのとき、シンハラ国からデーヴァ菩薩がやってきて、龍猛と論争したいと思い、門前に通してくださいと頼んだのでした。
門番がこの旨を龍猛に伝えると、龍猛はもちろんデーヴァの名をしていて、ついに鉢に満々と水を汲んで、弟子にデーヴァの所へ持って行かせたのでした。
デーヴァはこれを見て、黙って鉢の中に針を入れたのでした。

弟子が再びこの鉢を持って帰ると、龍猛はこれを見て大変喜び、

「水をこの鉢に満たしたのは、私の徳になぞらえたのである。ところで彼はこれに針を投げ入れ、ついに底を窮(きわ)めた。このような人こそ、ともに道を論じ深奥を語りあい、伝灯(でんとう)を嘱(しょく)することができよう」

といい、デーヴァを引き入れさせた。
〈『玄奘三蔵』(講談社)からの引用〉

デーヴァが席に着くと二人は何回も語り合って、二人ともどもに喜んだのでした。
それきはまさに水を得た魚のよんなのでした。

龍猛はデーヴァにむかって、

「私はもう老衰(ろうすい)してしまった。仏法を光り輝かせるのは、貴方(あなた)の仕事だ」

といい、デーヴァは席をはずして龍猛の足に礼をし、

「私は不敏ですが、あえて慈誡(じかい)(御教(みおしえ))をうけさせてください」

といった。
〈『玄奘三蔵』(講談社)からの引用〉

このページの先頭へ