三十六、「三蔵法師の夢 一」

王の招聘を固辞して以来、ジャヤセーナ論師はいつも杖林山にいて、学徒を養って教授し、つねに仏教を講じ、道俗の帰依する者はいつも数百人以上いたのでした。
三蔵法師は、ジャヤセーナ論師に二年間師事し、『唯識決択論(ゆいしきけったくろん)』『意義理論(いぎりろん)』『成無畏論(じょうむいろん)』『不住涅槃(ふじゅうねはん)』『十二因縁論(いんねんろん)』『荘厳経論(しょうごんきょうろん)』を学び、『瑜伽(ゆが)』『因明(いんみょう)』などの疑問が説くことができたのでした。

ある時、三蔵法師は、以下の夢を見たのでした。
――ナーランダー寺の僧院はすっかり荒れ果てて、あちこちに水牛が繋がれ、僧侶の一人も見えないのでした。
三蔵法師は、幼日王院の西門から入って、四重閣の上を見ますと、一人の金人(きんじん)がいるのでした。
顔容は端厳で光明は部屋に満ち溢れていたのでした。
三蔵法師は内心大いに喜んで、上に上ろうとするのでしたが、一向にかなわないのでした。
どうか引き上げて会わせてくださいと、嘆願しましたが、金人は、

「私はマンジュシュリー菩薩である。そなたは前世(ぜんせ)の罪業(ざいごう)があるため、まだここに来ることは許されない」

と言って寺の外をさし、

「そなたはあれをみよ」

と言った。
〈『玄奘三蔵』(講談社)からの引用〉

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