一、「ジャイナ教徒の占卜(せんぼく) 一」

クマーラ王の使いが三蔵法師のところに着く前に、一人の裸のヴァジュラ(伐闍羅)というジャイナ教徒(尼乾子)が、ある日、三蔵法師の僧房にやってきたのでした。かつて三蔵法師はジャイナ教徒が占卜(せんぼく)に巧(たく)みであると聞いたことがあったので、そのジャイナ教徒を引き留めて占(うらない)を聞いてみたのでした。

「私は支那国の僧ですが、ここへきて学問し、もうすでに長い歳月がすぎました。いま私は帰国しようと思います。しかし私には帰国しようとしても祖国へ辿(たど)りつけるかどうか、帰ったほうがいいのか、帰らぬほうがいいのか、また私の寿命は長いのか短いのか、――さっぱり分かりません。どうか占ってください」

するとヴァジュラは一つの白い石を探し出してきて、何やら地面に画いていたが、やおら法師にむかって、

「師はここにお住まいになるのがもっともよろしいようです。全インドの道俗すべての人びとで敬重しない人はないでしょう。しかし、帰国しようとすれば無事帰ることができましょうし、祖国においても敬重されましょう。ただインドにこのまま住んだ場合には及ばないでしょう。師の寿命はいまから十年ばかりでしょう。もっともほかに善(よ)いことの報(むく)いがあれば、もっと続くかもしれません」

といった。
〈『玄奘三蔵』(講談社)からの引用〉

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