二十二、「無遮大施(むしゃだいせ)」

ハルシャヴァルダナ王は仏牙をみて深く尊重の念を起して、その強力に恃(たの)んで、ついには仏牙を奪い取って持ち帰り、供養したのでした。

さて、大会が終わった後、王は鋳造(ちゅうぞう)した金像(きんぞう)や衣銭(いせん)はことごとく伽藍(がらん)にあずけ、僧侶に守護させたのでした。
一方、三蔵法師はさきにナーランダー寺の諸徳に辞意を表し、経像(きょうぞう)も集めることができ、議論も終わったので、十九日になって王にいって帰国しようとしたのでした。

すると王は、

「弟子は僧廟(そうびょう)を受けつぎ、天下の主となって三十余年、いつも福徳が増さず、法因が相続しないことを慮(おもんぱか)っております。そこで財宝を積み集め、鉢羅那迦(プラヤーガナ)国の両河の間に大会場をたて、五年に一度、全インドの沙門、バラモンおよび貧窮孤独(ひんきゅうこどく)の人びとを集め、七十五日の無遮大施(むしゃだいせ すなわち五年大会)をおこなっています。今まで五回実施しましたが、いま六回目の大会を開こうとしています。師よ、この催しをみて喜んでくださいませんか」

というので、法師も、

「菩薩は行(ぎょう)を為(な)すのに福慧(ふくえ)二つの道をおこない、智人は果(か)を得てその本(もと)を忘れぬといいます。大王はなお珍財を惜しまぬというのに、私が少しく停住するのを断(ことわ)ることはできません。どうか一緒に連れていってください」

と答えたので、王は非常に喜んだ。
〈『玄奘三蔵』(講談社)からの引用〉

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