四十四、「クスタナ国の伝説 一」

クスタナ国の国境に三蔵法師は入り、まず、勃伽夷(ぼっかい)城に至ったのでした。
城中には、仏の坐像があり、高さ、七尺余で、首に宝冠を戴(いただき)き、顔容はなかなか円満なのでした。
人びとの伝説によるとこの像はもともとカシュミーラ国にあったもので、請来(しょうらい)してここに至ったものであるということでした。

昔、カシュミーラ国に一人の羅漢(らかん)がいたのでした。
そのとき、たまたまある層が疹疾(ほうそう)に罹り、酢米餅(そべいへい)を欲しがったのでした。
羅漢は神通力でそれがクスタナにあることを知り、秘かに神足で赴いて求めて、これを僧に与えたのでした。
僧はこれをすっかり食べて喜び、その国に生まれたいと願ったのでした。
その願いは幸いかなえられ、僧の寿命が尽きた後、クスタナ王の家に生まれ変わったのでした。

王位を嗣いだ後、かれは 才略雄大で諸国の併呑(へいどん)を志し、遂に雪山を越えて元の祖国を討(う)とうとしたのでした。
時にカシュミーラ王も将兵を訓練して邀撃(ようげき)しようとしていたのでした。

しかし、羅漢は、

「刀をあげる必要はありません。私がみずから行ってきましょう」
〈『玄奘三蔵』(講談社)からの引用〉

といって、クスタナ王の所に赴き、貪暴のいけないことを諭(さと)して王の前身である沙弥(しゃみ)の衣服を示したのでした。

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