四十六、「ヴァイローチャナ 一」

王城の南十余里に大伽藍があり、これはこの国の先王がヴァイローチャナ(毘廬折那)阿羅漢(あらかん)のために造ったものです。

昔、この国に仏教がまだ広まっていなかったころ、ヴァイローチャナはカシュミーラからここに来て林中に坐っていたのでした。
これを見た人が、その服装や容貌(ようぼう)をあやしんで、王に報告したのでした。

王は親しく往ってその容姿を見て、

「そなたはなぜ独りで林中に住んでいるのですか?」

と尋ねると、つぎのように答えた。

「私は如来(にょらい)の弟子です。法によってここに閑居しているのです」

「如来というのはどういう意味ですか?」

「如来とはすなわち仏陀の徳号です。むかし、淨飯王(じょうぼんのう)の太子シャキャムニが、もろもろの衆生(しゅじょう)が苦界(くかい)に沈んで救いもなく、帰する所もないのを憐(あわれ)み給い、莫大(ばくだい)な資産と四州輪王(ししゅうりんのう)の王位を棄(す)て、閑林に修業すること六年、ついに悟りを開かれて金色の身体になられ、無師の法を証し、甘露(かんろ)を鹿野苑(ろくやおん)にそそぎ、摩尼(まに)に霊鷲山(りょうじゅせん)に輝かされました。その生涯の八十年のあいだ、人びとに教えを示し喜びを与え、化縁(かえん)すでに尽きて生をやめ、真に帰されましたが、遺像・遺典はいまもなお伝わっております。(続く)
〈『玄奘三蔵』(講談社)からの引用〉

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