六、「クマーラ王と戒賢法師」

使いがクマーラ王のもとへ帰ると、クマーラ王は重ねて使者を送ってきたのでした。

「法師がもし帰りたいとお考えなら、しばらく私の所で過ごしから帰ってもいいではありませんか。これは私の必死のお願いです。どうか私の願いを受け入れて、違わぬようにしてください」
〈『玄奘三蔵』(講談社)からの引用〉

しかし、戒賢法師はそれでも三蔵法師をクマーラ王のもとへと遣(や)らなかったのでした。
クマーラ王は激怒し、更に別の使いに手紙を持たせて戒賢法師のもとへと送ったのでした。

「弟子(わたしくし)は凡夫で世の楽しみに染まり、仏法にもいまだ帰依(きえ)していません。いま外国僧の名を聞き、身心ともに歓喜して道心の芽が開きかけました。ところが師は再三法師のおいでを許さぬ。師は衆生(しゅじょう)を長く常闇(とこやみ)に淪(しず)めようとされるのか。これが師の釈尊の遺法を盛んにする術か。私はかの支那僧を渇仰(かつぎょう)し、謹(つつし)んで重ねてこちらへ送られるようお願いする次第です。これほどにしても来なかったなら、私は本性(ほんしょう)はは悪人です。さきごろシャシャーンカ王は仏法を壊(こわ)さんがとし、菩提樹(ぼだいじゅ)を切りました。師よ、貴方(あなた)は私にその力がないとでもいうのですか。もし法師をこちらによこさないのなら、私はかならず象軍を整備して押し寄せ、ナーランダー寺を踏みにじって塵(ちり)のように砕(くだ)いてお目にかけましょう。この言葉は太陽と同じ(食言ではない)である。師よ、よく考えられたい」
〈『玄奘三蔵』(講談社)からの引用〉

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