九、「クマーラ王とハルシャヴァルダナ王」 二

一方で、クマーラ王は自分の失言を赤く反省し、やがて象軍二万、乗船三万艘(そう)をととのえて、三蔵法師と共に出発し、ガンガー河をさかのぼってハルシャヴァルダナ王の所へと赴いたのでした。

クマーラ王は出発前に、まず部下に命じて、ガンガー河の北岸に行宮(あんぐう)を営ませ、この日、川を渡って三蔵法師を行宮に安置し、その後、諸臣とともに川の南岸にあるハルシャヴァルダナ王の許へと言ったのでした。
ハルシャヴァルダナ王はクマーラ王がやって来たことを大いに歓び、王が三蔵法師を敬愛するあまり、さきの言葉をいったことを理解していたので、その事は一切責めることはなかったのでした。

ただ、

「支那僧はどこにいるのか」
と問うた。

「私の行宮(あんぐう)におります」

「どうしてここへ来ないのか」

「大王は賢人を敬(うやま)い、道を愛するお方です。どうして私が法師を連れてきて、王にお目にかけられましょうか」

「よし、分かった。それではそなたはしばらく自分の所へ帰ってください。明日(あす)私がみずからお迎えに参ろう」

そこでクマーラ王は引き返して法師にむかっていった。

「……このようなわけで、王は明日行くと申しましたが、おそらく今夜すぐにやってくるでしょう。しばらくお待ちください。もし大王がやってきても、師はけっして軽々しく動いてはいけません」

「私の仏法からの考えもそのとおりです」
〈『玄奘三蔵』(講談社)からの引用〉

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