十六、「三蔵法師を追ってきた州吏(しゅうり)とのやり取り」

三蔵法師は何も出来ずに沈黙の中、すぐに一月がたってしまったのでした。
こうしてまだ、出発できないでいるうちに、涼州の通牒(つうちょう)が来てしまったのでした。

通牒には、
「玄奘という僧がいる。彼は西蕃(せいばん)におもむこうと欲している。各地の県州はよろしく警戒を厳しくして捉えよ。」
とあった。
〈『玄奘三蔵』(講談社)からの引用〉

州吏の李昌(りしょう)は仏教を大変嵩信(すうしん)していたのでした。
彼は三蔵法師を心中では疑って、ついに通牒を持つて三蔵法師のところにきたのです。

彼はこれを示し、
「師はここに書いてある人ではないのか?」
と尋ねた。

法師が疑い迷って答えないでいると、李昌はつぎのようにいった。
「師よ、どうか本当のことをいってください。きっとそうでしょう。弟子(わたくし)が師のためによいように取り計らいますから……」

そこで法師は、本当のことをつぶさに語った。
李昌はそれを聞いて心から「希有(けう)のことだ」と讃え、
「師が本当にそうするのならば、師のためにこの文書を破り棄てましょう。」
といって、すぐ目の前で通牒を裂き破った。
そして「師はどうか早く出発してください」といった。
〈『玄奘三蔵』(講談社)からの引用〉

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