二十一、「胡人(そどく)とのやり取り」

三蔵法師が眠りについてしばらくすると、胡人は起き上がり刀を抜いてそろりそろりと三蔵法師名近づいてきたのでした。
しかし、あと十歩ばかりのところで引き返したのでした。
三蔵法師は胡人が何のつもりでそうしたのか分りかねていましたが、多分、胡人には異心があるに違いないと思い、三蔵法師はすぐさま起き上がって読経をし、心には観世音菩薩(かんぜおんぼさつ)を念じたのでした。
胡人はその三蔵法師の様を見ると自分の褥(しとね)に戻り横になって眠ったのでした。

翌日、明け方を迎え東の空が明るくなってくるころに胡人を起こし、盥(たらい)に水をとって口をすすいで食事を取って、それが済んだので、三蔵法師が出発しようとすると、胡人は、
「弟子(わたし)はまさに進もうと思いますが、道は嶮しく遠く、また、水草もありません。ただ五烽(ごほう)の下にだけ水があり、かならず夜そこへ行って水を盗んで通過せねばなりません。しかもどこか一ヵ所でも発見されれば、すぐさま殺され死人になってしまいます。やはり引き返して平穏に暮らしたほうがいいと思います。」
と、いった。〈『玄奘三蔵』(講談社)からの引用〉

ところが三蔵法師は決して引き返そうとはしませんでした。
天地を見わたして三蔵法師が出発しようとすると、胡人は刀を抜き弓を抜いて三蔵法師に前を行くように命じたのでした。
しかし、三蔵法師は不気味に思いそれには従わなかったのでした。

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