三十六、「高昌王との押し問答のあらまし」

「弟子(わたくし)は法師をひたすら敬慕しているのです。かならずお引き留めして供養するつもりです。葱嶺(パミール)山が転んでも、この心は変わりません。どうか私の誠心を信じて不実を疑わないでください」
「王の深い御心は、しばしばいわれるまでもなくよく分っています。ただ私の西行は法のためです。法についてはまだ何も得ておらず、中途で止められません。だから謹んでお断りしているのです。どうか王よ、よく理解してください。大王はさきに優れた事業を行って王となり、ただに人民の恃み仰ぐのみでなく、もとより仏教の保護者です。理(ことわり)は教えを助長するところにあるのですから、どうか私の西行を妨げないで下さい」
「私もあえて妨害しようというのではありません。ただ、この国には導師がいないので、法師にとどまっていただいて、愚迷な人びとを導いてもらいたいと思うのみです」
〈『玄奘三蔵』(講談社)からの引用〉

三蔵法師はこうした申し出をすべてお断りしたので高昌王はついに怒りだして袂を払って大声で言ったのでした。

「もし私が異心をもって貴方に処すれば、師はどうして出発出来よう。あるいは引き留めることを決め、あるいは法師を送って国に還らせることもできる。どうかこのことを考えてください。私の意向に従ったほうがいいと思うかどうか……」
〈『玄奘三蔵』(講談社)からの引用〉

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