四十三、「ウダ国の人びととハルシャヴァルダナ王との対話」

『破大乗論』を尊重していたウダ国の人びとはそこで『破大乗論』を示して、

「私たちの宗旨はこのようなものです。この中の一字でも大乗の人には論破(ろんぱ)できますまい」

といったので、王は、

「聞くところによると、狐(きつね)や鼠(ねずみ)の類は、自分一人のときは"私は獅子よりすぐれている"といっていても、いざ、獅子をみると、たちまち死にののきふるえるという。貴方(あなた)たちはまだ大乗の諸徳にあわないので、固く愚(おろ)かな小乗を守っているのである。もし大乗の諸徳にあえば、一見して恐れをなすこと、かの小鼠とおなじであろう」

と答えた。

すると人びとは、

「王がそのように疑うのなら、どこかここに大乗の大徳を呼んで対決し、是非(ぜひ)をきめたいものです」

といったので、王は、

「そんなことは簡単である」

といって、ただちにその日に使に手紙を持たせ、ナーランダー寺の正法蔵(しょうほうぞう)戒賢(かいけん)法師に次のように伝えた。

「私はウダ国に来ましたが、ここで小乗の師が自分の偏見(へんけん)にとりつかれて論をたて、大乗を誹謗(ひぼう)しているのをみました。その論理はきわめて害多く、よるべからざるものがあります。そして彼らは対面して貴方(あなた)がたと論争したいといっています。私はナーランダー寺の大徳がいずれも才知あまりあり、学の蘊奥(うんのう)を極めていることをよく知っています。そこでこの論争を許し、謹(つつし)んでお知らせする次第です。どうか自他の宗旨に通じ、内外の学に大徳四人をウダ国に行在所(あんざいしょ)に送ってください」
〈『玄奘三蔵』(講談社)からの引用〉

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