十二、「ハルシャヴァルダナ王との会見」 三

ハルシャヴァルダナ王は、この話を聞いて、

「そのような人でこそ、まさしく天が遣(つかわ)して物主(天子)とする人です」

と感心し、

「では、私はこれでお暇(いとま)し、明日(あす)師を迎えに参りましょう。どうかおいで願います」

といって帰った。
〈『玄奘三蔵』(講談社)からの引用〉

翌朝になって、早々、使者がやって来たのでした。
三蔵法師は、クマーラ王とともにハルシャヴァルダナ王の行宮(あんぐう)のそばまでゆくと、王は僧侶二十余人とともに三蔵法師を出迎えて、そして、行宮に入り席に着き、つぶさに珍味を連ねて、楽を奏して散華供養(さんげくよう)をしたのでした。

やがて、王は、

「聞くところによると、師は『制悪見論(せいあくげんろん)』を作られたということですが、どこにありますか」
〈『玄奘三蔵』(講談社)からの引用〉

と尋ねたのでした。

三蔵法師がここにありますと王に差し出すと、王はつくづくとこれを見て非常に喜んで、僧侶に、

「私は日光が出れば蛍(ほたる)や灯火(とうか)は明(あか)りを奪われ、天雷が鳴れば鎚(つち)や鑿(のみ)の音は聞こえなくなるという譬(たと)えを聞いたことがある。お前らの守る宗門の教えはみなこの論で論破(ろんぱ)されている。誰か試(こころ)みに自分たちの論を救わんとする者はないか」
〈『玄奘三蔵』(講談社)からの引用〉

といったのですが、そこにいならぶ僧侶たちは誰一人として口を出すものはいなかったのでした。

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