十九、「胡人(そどく)の老人」

石槃陀が老人とともにやってきたことに三蔵法師は不快に思ったのでした。

石槃陀が、
「この老人は極めて西方への路にくわしく、伊吾(いご)へ三十余回も往復した人です。それでいっしょに来てもらったのです。うまくとりなしてもらえるでしょう」
といった。

すると老人は、
「西路は険悪で、砂漠は非常に道が悪く長いのです。もし妖気の起こす熱風にあえば免れる者はありません。大勢でパーティーを組んで行っても、なお、ときどき道に迷います。まして師のようにお一人で行かれるのであれば、どうして行くつくことができましょう。どうかよくご自分で考えて、命を軽々しく扱われませんように……」
といった。

そこで法師は次のように答えた。
「私は大法を求めんために、西方へ出発しようとしているのです。もし婆羅門国(インド)に至らなければ、けっして東方に帰ってきません。たとえ中途で死んでも後悔しません」
「師よ。どうしても行かれるのであれば、この私の馬にお乗りなさい。この馬は伊吾に往復すること、すでに十五回になります。丈夫でよく知っています。師の馬は若くて遠い旅に堪えないでしょう」
〈『玄奘三蔵』(講談社)からの引用〉

そのとき、三蔵法師は思い出したことがあったのです。
かつて長安にいて、志を西域に行くということを意中で決心して出発しようとしていた時に、何弘達(かこうたつ)という術人(うらないし)がいたのでした。

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